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(2014年1月2日撮影)

 ヴィーヴヘルスケア株式会社(http://glaxosmithkline.co.jp/viiv/ 、以下「ヴィーヴ」または「企業」)が企画した、新宿2丁目ビル広告デザイン募集第一期に、村田ポコ氏(以下「村田」)のイラストレーションが採用されたことは、記憶に新しい出来事だ。

募集要項
http://glaxosmithkline.co.jp/viiv/healthcare/pdf/bld_ad_20130909.pdf
受賞作品決定のお知らせ
http://glaxosmithkline.co.jp/viiv/healthcare/topics_131120.html


 この広告は、新宿2丁目のメインストリートである仲通りの中心に位置する大交差点に建つ、ニューフタミビルに掲示されている。この企画が公表された当初、ビルの屋上に掲示されるのであろうと思われていたその広告は、ビルの2階に値する高さに新たに設置された巨大看板に掲示され、2丁目に集う多くの人々の耳目を集めた。人々が飲みに集う夜間にはライトアップもされるこの看板は、街の景観に大きな影響を及ぼした、と言っても過言ではないだろう。

 私は、2013年12月末に設置されたこの看板を見るたび、グッとくる想い、熱い喜びを、繰り返し噛み締めていた。
 グッとくる理由は、大きく分けてふたつだ。

 ひとつは、日本におけるHIVの現状を踏まえ、製薬会社であるヴィーヴがこの企画を立て実施した、その心意気にある。
 ここ何年もの間、日本国内において新規にHIV陽性であると分かった者、およびエイズ発症者は男性であり、その感染経路は、男性同性間の性的接触によるものだ。厚生労働省も、MSM(Men who have Sex with Men、男性と性的接触をもつ男性)を個別施策層と位置づけ、適切な啓発と支援を要する層として捉えている。しかし、日本ではHIV/エイズへの偏見、MSMへの偏見が重なり、その支援は容易なものではなかった(この歴史・現状については、HIVマップのアーカイブス http://www.hiv-map.net/archive/ 情報ファイル http://www.hiv-map.net/file/ 等に詳しい)。

 その状況において、新宿2丁目では兼ねてより、「Living Together」というメッセージが提唱されてきた。このメッセージは、NPO法人akta(http://www.akta.jp 旧・Rainbow Ring)と、NPO法人ぷれいす東京(http://www.ptokyo.com)が呼びかけ団体となったプロジェクト「Living Together計画」(http://www.living-together.net)に端を発するものである。HIV感染ステータスを問わず、私たちは既に常に、HIVと共に生きている。多様性を伴った視点から、このリアリティを持つことから出発しよう、という呼びかけだ。
 今回のキャンペーンでは、このメッセージが課題として採用された。「Living Together」という言葉は、これまでも厚生労働省が平成18〜21年度にかけて世界エイズデーの標語に援用するなど、さまざまな広がりを見せてきているが(http://api-net.jfap.or.jp/lot/2013camp_theme.html)、今回は、HIV治療に資する企業が、これまでのCBO(Community Based Oranization)の地道な活動を評価し、この言葉を選択したと考えられる。また、審査員に招かれた方々の多くは、これまでもコミュニティにおいてHIV/エイズの問題に関わり続けてきた人々であり、特に、HIV陽性者のネットワークであるJaNP+(http://www.janpplus.jp)の方も含めての審査が行われたことも、特筆すべき点であろう。

 また、新宿2丁目は多数のゲイバーがひしめき合う「ゲイタウン」としてしばしば表象されるが、実際に存在しているのはゲイバーだけではなく、また、ゲイだけが集う街ではない。(ゲイバーに比して数が少なくはあるが)レズビアンやトランスジェンダーの人々が集うバーもあり、それらに集まる客もまた、ヘテロセクシュアルを含む、さまざまなセクシュアリティの人々だ。更に、非ゲイ産業のオフィスビルや飲食店も立地しており、近辺に居を構える人々も少なくない。
 この新宿2丁目という、さまざまな人々が交錯する場において、敢えて、HIV/エイズという、未だスティグマの残るMSMの健康課題を問う広告を大々的に打つことは、大きな挑戦である。ゲイではない人々からの反発は容易に想像がつくからだ(もちろん、「ゲイ」それ自体も一枚岩ではなく、反発は十分に予測される)。
 これらの文脈において、この広告企画は、ゲイを明確なメインターゲットとしながらも、しかし、ゲイだけを見据えたものではない。さまざまな人々が集う場において、MSMのセクシュアリティのあり方や、その健康課題を、共に考えていこうではないかという、新宿2丁目という場/コミュニティに対する、呼びかけなのである。このことは、先に挙げた募集要項においても、明確に示されている。

今回公募する広告では、まず「HIV陽性であっても、友人や恋人との関係が今までと変わらない」、「ゲイコミュニティに居場所がある」というメッセージを、新宿2丁目という街で発信したいと考えています。(ヴィーブヘルスケア株式会社「ビル壁面広告デザイン募集のお知らせ」2013年9月9日)


 つまりこの広告コンペティションは、日本におけるHIV/エイズの感染動向をベースに置きながら、CBOの活動の成果に敬意を払いつつ、新宿2丁目に対して敢えて打って出る、という、先駆的であり、かつ非常に挑戦的な試みなのだ。この高い志しは、私の心を強く打つものであった。


 もうひとつのグッとくる理由は、このイラストレーションが、優れたイラストレーターである村田の、ゲイアーティストとしての集大成となるマスターピースであること、そしてその作品が正しく評価されたことにある。
 2009年に開設したblog形式のwebサイト「ムラタポ」(http://murapo.skr.jp)にて、ゲイイラストを発表してきた村田は、精緻でありながら、どこかおかしみや愛嬌、色気のある作品で、徐々にファンを増やしていった。しかしながら、北海道に居を構えていることもあり、ネットを離れたゲイコミュニティにおける交流、特にゲイアーティスト同士の交流は、なかなか持つ機会がなかった。
 その村田が、ゲイコミュニティにおける交流を持つきっかけとなったのは、(拙企画であるため恐縮ではあるが)2012年1月に新宿2丁目のcommunity center aktaを会場に開催されたグループ展「雪華の宴」である(http://leisurelymanner.blog59.fc2.com/blog-entry-188.html)。この展示開催期間に、村田は会場へと足を運び、自身のファンや、他のゲイアーティストたちと交流する機会を持つに至った。この展示から生まれた縁は、2012年10月にリリースされた10代のユースLGBT支援を目的とする企画同人誌「IT'S OK!!」への参加(http://leisurelymanner.blog59.fc2.com/blog-entry-197.html)、優れた電子書籍作品「ナイン・ストーリーズ」の装画担当(http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00DSQV6E2/)へと結びついていく。また、これらのイラストが評価され、ぷれいす東京Gay friends for AIDSが主催するトークイベント「QOGL」のイメージイラストを依頼されるようになるなど(http://gayfriendsforaids.blog82.fc2.com)、着実にゲイコミュニティとの繋がりを深めていくこととなった。
 これら一連の流れ、人との縁、あるいは、ゲイコミュニティへ自分なりのかたちでの貢献したいという想いの高まりが、村田がこのコンペティションに応募する決意に至らせたであろうことは、想像に難くない。

 こうした背景のもとに制作されたイラストレーションは、企画の意図を最大限に汲み取り、かつ、更なる挑戦を意図するものとして描かれている。年齢や体型も異なる6名の男性(これは、レインボーカラーの6色も企図されていると思われる)が、互いに少しずつふれ合い、寄り添い合うこの作品は、貞本義行(「ヱヴァンゲリヲン」「サマーウォーズ」キャラクターデザイン)や窪岡俊之(「THE IDOLM@STER」キャラクター原案)にも系譜されるであろう、色気を湛えながらも清潔さを同時にまとう村田の絵柄が、十全に活かされたものだ。

 紙幅を割いて特筆すべきは、この構図のなかで、中心にひときわ大きく描かれた男性だ。黄緑色に水色のラインのローライズボクサー1枚のみを身にまとい、鍛えられた素肌を惜しげもなく晒すセクシュアルな要素を持ちながら、しかし、村田独特のユーモアさえ感じさせる、愛嬌のある微笑みを浮かべるとともに、看板を見る者へとウィンクを投げかけている。その左に描かれた、タンクトップの若者も、看板を見る者へと目を向けてはいるが、
「どうだい? 俺と一緒に、この輪の中に加わらないか?」
とでも言うかのような、明確な意志を感じさせる視線を投げかけているのは、この男性のみだ。「ゲイコミュニティにも居場所がある」という企業が掲げたメッセージを、この看板を見る者に対して差し向ける役目が、この男性に−−−メッセージを伝えたいゲイ層の目を一番惹くであろう、素肌を露出した男性に、託されているのである。
 また、この男性の素肌の露出度合いや描かれた体毛の量は、明確にゲイをメインターゲットとしながら、また、村田が好んで描くモチーフの壮年・中年期の男性でありながらも、ゲイ以外の人々にも受け入れやすいギリギリのラインを狙った広告イラストレーションとして描かれている(例えば、髭の濃さや年齢から見て、腕の毛やすね毛、胸毛などが生えていておかしくない男性でありながら、セクシュアルさを示す最小限度の範囲のなかで、最大限に描かれたのが、このイラストのなかで見られる体毛描写である、と言える)。もちろん、肌を多く露出し、一部ながらも性毛をも見せつける下着姿の男性の図像を不快に思う者が、セクシュアリティを問わず在り得ることは確かだが、そこを越えてなお、耳目を集めるために、セクシュアルな要素を盛り込むこと。それを目的とした綿密な計算のもと、そして、物議を醸し出し得ることも踏まえた挑戦のうえに、この作品は制作されているのである。

 このイラストレーションは、ゲイコミュニティに対する貢献を、自身の力すべてを以て行わんとする、村田の意志の結実だ。コンペティションである以上、賞を穫りにいかんとする強い闘志を秘めながらも、受賞それ自体を目的とするのではなく、企画・課題の意図に最大限応え、さらにその意義を膨らませようとする意志。この志を以て描かれたこのイラストレーションは、紛うことなきゲイアート作品であり、現時点における村田のマスターピースであることは、疑いようのない事実である。

 つまり、新宿2丁目に広告を打ち出すという企業の挑戦に、セクシュアルな要素を盛り込んだ作品を送り込むという村田の挑戦が掛け合わさり、そして結実したのが、この看板なのだ。村田がこの絵を描きあげたこと、そしてその志が正しく評価され、新宿2丁目の街に掲出されたこと。このことは、村田のいちファンとして、また友人として、どれだけ誇らしいものであるかは、書きようもないものだ。


 私が、2013年12月末から、2014年3月中旬まで掲出されていた、オリジナルの看板に対して抱く想いは、以上にまとめられる。3月中旬以降、修正が施された看板に対しての想いを厚く示すことは敢えて避けるが、オリジナルの看板が勝ち得てきた大きな価値が損なわれてしまったことは、残念でならない。



ムラタポ「新宿2丁目看板広告についてのおしらせ」(2014年3月14日)
http://murapo.skr.jp/2014/03/140314.html



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